池
私の住む兵庫県 加古郡 播磨町は、瀬戸内海に面した播州平野に有る。
今でこそ減ったが、稲作の為水田が数多く有り、その為の貯水池が散在していた。
近所の神社を南にくだり、鳥居を抜けると細い農道になる。
両脇に水田が広がり、あぜ道伝いに通称「蓮池」にでると池の岸沿いには葦が茂り、蓮の葉が水面からのぞいた。
フナ、モロコ等今では数が減った魚や、ギンヤンマ、コシアキトンボ、イトトンボの仲間多数など水棲昆虫も数多くいた。
冬になると水が減り、泥の底が広がると、カラスガイの移動した跡などが見られた。
シギやチドリなど水鳥も多く、カイツブリの声は初夏の風物詩だった。
この蓮池は、蜂との出会いは必ずしも多くはなかったが、水棲動物や、鳥類にも興味を持ったことの有る私にはとても思い出深い場所となった。
蜂の記憶は、はっきりしているものでは、1種しかない。
しかも、同定していない。
―アナバチの一種に違い無いのだが、1センチ前後の小型種で黒い姿をしていた。
非常にもろい岸辺の砂地に穴を掘り、巣を作った。
緑色の餌はウンカ、ヨコバイの類で、目前の池に生えた多数の植物の茂みの中に生息していたのだろう。
1つの営巣地に個体数は比較的多く、座して見渡せる範囲に数匹が営巣していたと思う。
餌を持ち帰る間隔は短く、見ているうちに戻ってきた印象が有る。
餌に不自由しなかったのだろう。
ただこの蜂をみたのは比較的幼いころで、巣穴の発掘や、写真撮影をするに至らなかったのは、今思えば残念だ。
この池も二十数年前に半分以上が埋め立てられ、6つ年下の弟が通うこととなる、播磨町で2番目の小学校が建てられる事となった。
数年前までやっていた朝のジョギングのコースでもある。
毎朝6時前から4−5Km走っていた青年は、今はそれよりビールを愛するおやじとなった。
御近所
近所の家。
とは言え、他人の庭に勝手に侵入しては罪に問われる。
だいたい、「蜂見たい病」が発症しているときは、とにかく、徒歩でも自転車でも近所をうろうろする。
とくに、寺や神社といった特殊な環境でない場所でチェックするポイントは、蜂の親が食事をする花の有る場所だ。
もうひとつは、穴掘り系の蜂の巣が有る場所を見つける場面が、ゲリラ的に現れる。
これが結構どきどきする。
トガリアナバチの仲間などは探そうとしてそう簡単に探せるものではないので見つけた時の興奮はかなりのものだった。
今でこそ、見かけることは少なくなったが、ちょっとした空き地に蜂がよく飛来する植物が群生していた。
衣服にその種子をつけるため嫌われる、イノコヅチ、ヌスビトハギなど、通称
“ひっつき虫” (関西だけ?)は数平方メートルの中にも多くの蜂が飛来していた。
特にイノコヅチは、ドロバチやジガバチの種が多く見られた。
スズバチ、オオフタオビドロバチ、オオカバフスジドロバチ、ミカドドロバチ、トックリバチ、キボシトックリバチ、キアシトックリバチ、トックリバチ、サムライトックリバチ等多くのドロバチ、トックリバチの仲間と、当時、マイナーなイメージだったジガバチ、クロアナバチ、ほかに記憶には残っていないが、あとアナバチ系も多く食事に来ていた。
季節は秋だった。
季節はさかのぼり、夏から初秋には、ヤブガラシという、ツル性の植物が蜂の餌場となった。
はなびらのない、この植物の花は、つぼみの時の淡い緑色から、開花するとメロンの果肉のような、オレンジ色になる。
この花には、ハナバチ(BEE)肉食バチ(WASP)が偏り無く訪れる。
ミツバチのようなポピュラーな種、同じくフタモンアシナガバチ、セグロアシナガバチなど、巣も蜂もよく見られる種はもちろん、アカアシトガリアナバチのような、この花で初めて見た種もいた。
この蜂は土中に巣を作るらしいが、その営巣活動は、今まで見たことは無い。
ただ、町内にある、大中遺跡という、縄文時代(?)の遺跡の脇に走っていた、鉄道の脇に置いてあった、枕木の下をうかがうように素早く飛ぶこの蜂を見かけたが、獲物を探していたのか、営巣場所を探していたのかは定かではない。
コハナバチも多かった。
チャスジコハナバチ、ツヤハラナガコハナバチ、アカガナコハナバチなど。
前述のドロバチ、トックリバチの仲間はほとんど見られた。
季節柄、ベッコウバチの仲間は多かった。
ベッコウバチ、オオモンクロベッコウ、キオビベッコウ。
キオビベッコウは、雄と雌の色や大きさが違うので、昔は別種と考えられていたらしい。
雄は一度だけ見かけたが、採集は失敗した。
いまだ標本は持っていない。
この花に特によく訪れるのは、(と言うか、他の花に比べ、あまりにこの花によく訪れる)クロアナバチである。
真っ黒で3p程も有る大型のアナバチだ。
幼いころは珍種という認識だったが、砂の混ざった裸地など営巣に向いた環境にあると、多くの個体がが営巣する。
事実、播磨町新島(播磨町の3分の1を占める埋立地からなる、工業団地向けの人工島)に面した海岸沿いの砂地には数多くのこの蜂が営巣していた。
巣穴は地面から斜めに掘り始められ、深さは30p以上になるが、面白いのは巣穴の状態だ。
通常ジガバチ科の蜂は、巣穴を掘ってから、子供の餌を狩ってかえってくるまで、一旦入り口だけ埋めてしまう。
この蜂は、その本当の巣の入り口の両サイドに1つずつ穴を掘る。
と言っても、数pの深さだが。
その周辺を見てみると、ハエが何匹か巣の入り口を伺っている。
ヤドリバエだ。
親蜂が巣穴に戻ると近寄ってまとわりつく。
上手く巣部屋に潜りこんで産卵を成功させると、その巣部屋からは、クロアナバチではなく、ハエが羽化する。
両サイドの偽穴は、こういった寄生昆虫の目を欺くためのものらしい。
とにかく、見ているうちにも沢山の蜂が、獲物のツユムシやササキリ、クビキリなどをくわえて地面に着陸してきた。20年近く前の(1980年くらい)事だが、今はどうなのだろう。